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炭酸飲料の泡が"のどごし"を作る科学的理由|シュワっと感の正体

炭酸飲料の泡が"のどごし"を作る科学的理由|シュワっと感の正体

暑い日に飲むコーラやサイダー。口に含んだ瞬間の「シュワッ」とした刺激、そしてのどを通る"爽快なのどごし"。 この気持ちよさの正体は、ただの泡ではありません。 実は科学的な反応が私たちの感覚を刺激しているのです。

目次


◆ 「泡=のどごし」は誤解だった!?

多くの人が「炭酸の泡が刺激を生む」と思っていますが、実際には泡そのものは主役ではありません。
本当の"のどごし"を作っているのは、二酸化炭素(CO₂)と水(H₂O)の化学反応によって生じる「炭酸(H₂CO₃)」なのです。

CO₂(炭酸ガス)+ H₂O(水) → H₂CO₃(炭酸)

この反応により生まれる"弱い酸"が、口やのどの粘膜にある痛覚受容体を刺激。 脳はその刺激を「快感」として処理し、「シュワッ」「スッキリ」と感じるのです。


◆ 科学で見る"のどごし"の正体

アメリカ・ロチェスター大学の研究では、炭酸の刺激は「味覚」ではなく「痛覚」であることが確認されています。 つまり、炭酸を飲むときに感じる"スカッとする感覚"は、痛みを脳が「心地よい刺激」として誤認している状態なのです。

このときの主な反応は以下の通りです。

  • CO₂が水に溶けて炭酸に変化
  • 炭酸が舌やのどの粘膜を刺激
  • 痛覚神経が反応し、"爽快感"として脳が処理

つまり、炭酸の魅力は"痛みと快感の境界線"。 これが、何度でも飲みたくなる中毒性の正体でもあります。

◆ 痛覚受容体「TRPA1」と「TRPV1」の働き

さらに詳しく見ていきましょう。炭酸の刺激を感知するのは、TRPA1(ワサビ受容体)TRPV1(カプサイシン受容体)という2つの痛覚受容体です。

これらは感覚神経に存在し、化学的刺激や温度変化に反応します。炭酸によって生成されるH₂CO₃(炭酸)は、これらの受容体を活性化させ、「ピリッとした刺激」として脳に伝達されます。

TRPA1はワサビやシナモンの辛みにも反応する受容体であり、TRPV1はトウガラシのカプサイシンに反応することで知られています。つまり、炭酸を飲むときの刺激は、辛いものを食べたときと同じメカニズムなのです。


◆ 泡は「ガスを閉じ込めるフタ」だった

とはいえ、泡にも大切な役割があります。 それは炭酸ガスを逃がさないための"フタ"として機能していることです。

泡が多い飲料(ビールやサイダー)は、刺激がマイルドに感じられます。 逆に泡が少ない飲料(ソーダ水・強炭酸水)は、刺激がダイレクトにのどを突き抜ける特徴があります。

飲料タイプ 泡の量 のどごしの特徴
コーラ 中程度 甘みとバランスの取れた刺激
サイダー やや多め 爽やかでマイルド
強炭酸水 少なめ 直線的で鋭い刺激
ビール 多い クリーミーで柔らかい口当たり

◆ ビールの泡が特別な理由

ビールの泡が他の炭酸飲料と違ってクリーミーで消えにくいのには、科学的な理由があります。

ビールの泡を構成する気体は二酸化炭素ですが、麦芽由来のタンパク質ホップ由来のイソフムロン(苦味成分)が泡の周囲を包み込み、膜を形成します。これにより、他の飲料の泡よりもキメが細かく壊れにくい層が作られるのです。

コーラやチューハイなどの炭酸飲料は、泡が遊離してもそのまま液面から気体中に放出されるため、泡の層はできません。しかしビールでは、タンパク質とイソフムロンの複合体が泡膜の表層付近に配列するため、安定した泡が持続します。

さらにビールの泡には、①酸化防止(空気との接触を防ぐ)、②炭酸ガスを逃さない、③口当たりを柔らかくするという3つの重要な役割があります。泡が苦味成分を多く含むため、液体部分の苦味がマイルドになり、飲みやすくなるのです。


◆ 温度が"のどごし"を2倍にする

冷たい炭酸が美味しく感じるのは、科学的にも理にかなっています。

  • 低温ほどガスがよく溶けるため、開けた瞬間に強い刺激が生まれる
  • 冷たさで神経が敏感になり、刺激をより強く感じる

つまり、「冷たさ+化学反応+痛覚刺激」のトリプル効果で、のどごしが倍増するのです。 夏にキンキンに冷えた炭酸が最高なのは、科学的にも必然といえます。

◆ 温度と溶存二酸化炭素の関係

水に溶け込む炭酸ガスの濃度は、水温に大きく左右されます。圧力のかかっていない場合、25℃で約1500ppm、40℃では約1000ppmまで低下します。

一方、炭酸飲料は密閉容器内で高圧状態に保たれています。日本のJAS規格では、温度20℃のときのガス内圧力が定められており、例えば炭酸水(タンサン水)は3.0kg/cm²以上、サイダーやコーラは0.7kg/cm²以上と規定されています。

冷蔵庫でしっかり冷やすことで、開栓時に多くの炭酸ガスが液体内に保持され、より強い発泡と刺激を体験できるのです。


◆ pHが示す炭酸飲料の「酸性度」

炭酸飲料が酸っぱく感じる理由、それは酸性度の高さにあります。炭酸(H₂CO₃)自体は弱い酸ですが、コーラなどの炭酸飲料には他の酸味料も含まれているため、pHが低くなります。

飲料 pH値 酸性度の特徴
コカ・コーラ 2.2~2.5 胃液(pH1~2)に近い強酸性
モンジュー 2.1 非常に強い酸性
黒酢ドリンク 3.1 強酸性
スポーツドリンク 3.5 やや強い酸性
サイダー 3.6 やや強い酸性
ウィルキンソン炭酸水 4~5 弱酸性
ビール 4.0~5.0 弱酸性
7.0 中性

ウィルキンソンなどの無糖炭酸水はpH4~5と弱酸性ですが、コカ・コーラはpH2~3とかなり強い酸性です。これは炭酸だけでなく、クエン酸やリン酸などの酸味料が防腐剤として添加されているためです。

強い酸性下では微生物が繁殖できないため、糖分たっぷりのコーラでも腐りにくくなっているのです。


◆ 炭酸が抜ける=刺激が消える理由

時間が経つと炭酸が抜け、あのスカッとした感覚がなくなります。 これは、ガスが水中に溶け込めなくなり、化学反応が起きにくくなるためです。

また、氷を入れると冷えてガスは逃げにくくなりますが、溶けて薄まると刺激は減少します。 コンビニで人気の「強炭酸水」は、ボトル内圧を高く設定することで、 通常の炭酸水よりも多くのCO₂を保持しています。

炭酸飲料メーカーでは、炭酸強度をGV(ガスボリューム)という単位で管理しています。1リットルの液体に1リットルの炭酸ガスが溶けている状態を「1GV」といい、強炭酸水は通常の炭酸水よりも高いGV値を持っています。


◆ まとめ:のどごしは"痛みの快感"だった

炭酸飲料ののどごしは、単なる泡ではなく、 化学反応+痛覚+温度刺激という複雑な要素から生まれています。

つまり「のどごしの良さ」とは、私たちが無意識に楽しんでいる痛みの心地よさ。 だからこそ、あの"シュワッ"がクセになり、また一口飲みたくなるのです。

TRPA1やTRPV1といった痛覚受容体の研究は、新しい鎮痛薬の開発にもつながる可能性があるとされており、炭酸飲料の"のどごし"は、医学的にも注目される現象なのです。


◆ 次に読みたい記事

それではまた次回のブログで。

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